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2014年2月3日
乳幼児の有熱性尿路感染症
乳幼児期の発熱の原因はさまざまですが腎臓に細菌感染が生じて高い熱が出る病気が尿路感染症です。尿検査、尿の培養検査で診断されます。この尿路感染を繰り返す原因として膀胱尿管逆流症が関与している場合があります。通常腎臓で産生された尿は腎盂、尿管、膀胱の順に流れていき排尿されますが、一度膀胱に貯まった尿が再度尿管や腎臓の方に戻ってしまう病気です。膀胱尿管逆流症は程度によりⅠ~Ⅴ度に分類されますが、逆流が高度な場合は腎障害を伴うことがあります。先月末にこの膀胱尿管逆流症とそれに伴う逆流性腎症をマニアックに追求していっている研究会、第22回日本逆流性腎症フォーラムに参加してまいりました。
まず尿路感染症を診断した後の検査ですが、排泄時膀胱尿道造影検査(VCUG)、DMSA腎シンチグラフィーを施設の方針により行っているのが一般的ですが、目的は腎障害の原因となるような高度な逆流を見逃さないことにあります。侵襲のある検査ですので、方向性としては初回の尿路感染全例に行うのではなく高度な逆流を疑わせる症例を何とかセレクトして(超音波検査、尿路感染を繰り返す症例、検査データなどから)検査を行っていくように各施設努力をしていっているようでした。また実際に膀胱尿管逆流症が見つかった場合の逆流に対する対応の仕方ですが、専門家の間でも意見の一致はみられておらず、施設によっては非常に高度な逆流でも感染がコントロール出来ていれば何もせず長期に経過観察するという考え方もあり考えさせられました。臨床的な見地からは膀胱尿管逆流自体が腎障害の悪化に関与しているという根拠には乏しいという報告、反対に病理学的な実験モデルでは尿路感染を生じなくても尿の逆流のみで腎尿細管への障害は生じているという報告がなされていました。
数年前にローマの小児病院で開催されたヨーロッパの小児泌尿器科学会主催のセミナーに参加しました。ローマの小児病院はバチカンのサンピエトロ大聖堂のすぐ近くの丘の上にありました。そこでも今回と同じような議論がなされ、手術介入は控えていくような方向性が示されていました。そのときにも同様に手術適応の難しさを感じた覚えがあります。
現時点で当院では腎瘢痕のあるⅣ-Ⅴ度の高度逆流や中等度な逆流でも尿路感染のコントロールに難渋する場合、何年もの間経過観察しても逆流が消失しない場合については手術(開放手術もしくは膀胱鏡下手術)適応があると考え対応しております。今回の逆流性腎症フォーラムでは色々考えさせられましたが方針の変更の必要性は感じませんでした。
我々の扱う病気の中では数も多く奥が深いので追求していく面白さがある分野です。マニアックな研究会の報告でした。
中原
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